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執筆者の写真浄光寺

11月お便り

いのちのいとなみ


先日、散歩で犬を川で泳がせながら不思議なものを発見しました。なんとカマキリが水中の川底を歩いているのです。カマキリにそんな習性があったかといぶかしく思いながら、水中から引き上げてみました。すると、お尻からなにやら茶色の細長いものがニョロッと出ており、クネクネと動いています。はじめは卵管かと思いましたが、水中に卵を産むカマキリの話も聞いたことがありません。結局その時は謎のままでした。

 職場でその話をしていると、若い男性が「それ、ハリガネムシですよ。」と教えてくれました。ハリガネムシという寄生虫は、ヤゴなどの水生昆虫に寄生して、その羽化(ヤゴであればトンボ)とともに水域から陸に移動します。そして水生昆虫がカマキリに捕食されると、その体内で成長し成虫になります。そしてカマキリの感覚を狂わせて宿主を操り川の中に誘導すると、脱出して水域に戻り、繁殖して一生を終える、という生物だそうです。生き物のなんとも不思議な世界を感じさせられました。また、別の日には同じ川での散歩道で鹿の死骸に出遇いました。様々な種類の虫や目に見えないバクテリアたちが鹿の骸に群がり、ほんの数日で骨だけの姿になっていました。

 生き物たちは食べ物や棲む場所、活動する時間帯、交信する周波数まできっちり決めて、頑なにそれらを限定しながら活動しています。限りある資源を巡って異なる種どうしが無益な争いを避けるために、長い時間をかけて作りだしてきたバランスなのでしょう。それを生物学用語で「ニッチ」と呼ぶそうです。全ての生物が守っている自分のための僅かな窪み=生物学的地位です。

 いのちの世界の不思議はそのバランスの保ち方にあります。この世界には、その秩序を破壊しようとする力が情け容赦なく働いています。形あるものを壊し、熱あるものを冷まし、輝けるものを色あせさせる力です。それを防ぐために建造物であれば頑丈に作って破壊から守ろうとするでしょう。しかしいくら頑丈に作ってもやがて破壊の力はそれを凌駕します。生命の世界はまったく違う方法を採用しました。わざと仕組みを柔らかく緩く作る。そして、壊される前に自らを壊し作り直す。この永遠の自転車操業によって何とかその恒常性を保っているのだそうです。それを可能にしているのは、その仕組みを構成している生物が多様性に満ちていて非常に多くの種類から成っていることです。

 地球上の全てのものは様々な元素から成り立っています。その総量は昔からずっと変わりません。その元素は絶え間なく結びつき方を変えながら循環しています。私たちの身体も、その循環の中にあります。その循環を動かしている働き手は、この地球上に存在している一千万種とも言われる生物たちです。この生物たちは自らの「ニッチ」を守りながら生きています。ただヒトだけが自然を分断し他の生物のニッチに土足で上がり込みバランスを壊しています。ヒトだけが全てを独り占めしようとしています。私たちヒトは、もう何が自分自身のニッチかわからなくなっているのかも知れません。仏法を聞かせていただきながらそのような我が身のありようについても考えたいものです。



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