安倍元首相が街頭演説中に銃で撃たれて亡くなりました。政治家の命を銃撃で奪うという蛮行に痛ましさとともに強い憤りを感じます。しかし、安倍氏を「国葬」にすべきかどうかとなると、全く問題は別です。「国葬」を行うということは、国民の中で評価が大きく分かれている安倍氏の政治的立場や政治姿勢を、国家として全面的に公認し、国家として安倍氏の政治を賛美・礼賛することになります。また安倍氏に対する弔意を、個々の国民に対して、事実上強制することにつながることも、強く懸念されます。弔意というのは、誰に対するものであっても、弔意を示すかどうかも含めて、すべて内心の自由にかかわる問題であり、国家が弔意を求めたり、弔意を事実上強制したりすることは、あってはならないことです。
安倍政権下での出来事を振り返ってみます。第1次政権下では「伝統を尊重すること」や「国を愛すること」を盛り込んだ改定教育基本法を成立させました。以後、教科書検定や教育委員会制度にも政治が介入できる「改革」を進めていきます。また、改憲をにらんで国民投票法を成立させました。2012年に第2次安倍内閣が発足してからは、すぐ翌年に特定秘密保護法を強行採決の上成立。日本は武器を輸出しないという三原則も撤廃させました。集団的自衛権の一部行使容認を可能とする安保法制については、国会を数万人のデモ隊が取り囲む全国的な反対運動が起こりましたが、強行採決の上成立。軍事費が初めて五兆円を突破。2017年には沖縄県民の民意を無視して辺野古への米軍基地建設に向けた工事を強行。同じ頃に「森友問題」「加計問題」が発覚します。安倍氏は関わりを否定し続けましたが、問題をめぐって公文書の改ざんが明らかになり、それに関わらせられた職員が追い詰められ自殺する事態まで起きました。同じ頃“現代の治安維持法”とも呼ばれる「共謀罪」を強行採決・成立。2019年には「桜を見る会」問題が国会で取り上げられ、政治を私物化する安倍氏の姿勢が大きな問題として明るみに出ました。「その功績は素晴らしい」と賛美・美化する人たちがいる一方で、この国の民主主義をとことん劣化させた人物と評価する見方もされている安倍氏。法的な根拠もない「国葬」にすることには大きな問題があると私は思います。
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